飛んで行った鍵

飛んで行った鍵

以前健康ランドに行った時のことです。電話線のようなぐるぐるのゴムに付けられたロッカーの鍵を、友人は手首に、私は足首にそれぞれはめていました。入浴前には軽く乾杯し、水着着用で混浴タイプだったこともありかなりはしゃいでいました。室内の温泉で温まった後、屋外の温泉巡りをしていました。平日とはいえどのお風呂にもちらほらと人がいます。やや人目に付きにくい場所に位置している温泉に入っていた時、他のお客さんたちが移動して我々のみになりました。そこで大はしゃぎをし始めた友人が、バシャバシャとお湯を空に向かって飛ばし始めました。そして勢いよくお湯を飛ばした瞬間、手首についていた鍵はお湯とともに夕方の空に舞い、雑木林のような場所へと落ちていきました。チャリンという寂しげな音が聞こえ、温泉に入っているにもかかわらず血の気が引いていくのを感じました。確か、鍵を無くした場合には数千円の請求がされる。ロッカーに貼ってあった注意書きを思い出しました。急いでお店のスタッフさんを呼びましたが、懐中電灯で雑木林をチラチラと照らして「これはもう、ここから探すのは無理ですね」と言われてしまいました。懐中電灯を受け取り、自分たちだけで探すことにしました。幸いにもまだ他のお客さんは来ていません。しかも水着を着用しているので、裸よりマシと自分に言い聞かせ、雑木林に身を乗り出し音が聞こえた方をチラチラと照らし続けました。そんなことをしているうちに日が暮れ、だいぶ暗くなってきました。もう無理だ、風呂上がりのビールは諦めて罰金を払おう。そう思った時、キラリと光る何かを目の端で捉えました。予想した落下地点よりやや離れた位置に鍵が落ちていたのです。歓喜し、ガサガサと草や枝をかき分けひやりと冷たい鍵を拾い上げ、しっかりと握り熱い温泉に飛び込みました。鍵を受け取った友人はそれを足首につけ、無事に温泉を出た後たくさんビールを奢ってくれました。結局鍵は見つかったのでトラブルと言っていいのかわかりませんが、鍵が宙を舞っているシーンは人生であの一度きりしか見ていません。

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