父親の涙

父親の涙

祖父から相続した古い家には、古い蔵がある。
妻、「あの蔵って何が入ってるの?」
私、「知らない」
妻、「お爺ちゃんから聞いてないの?」
私、「うん。聞いたことがあるのは、蔵には入るなってことだけ」
妻、「どうして入ったらダメなの?」
私、「知らないよ」
妻、「怖くない?」
怖いと思っているから、蔵に近づくことさえしていない。

妻、「お父さんは蔵のことを知らないの?」
私、「どうだろ」
父親に蔵のことを聞くと
父親、「たしか俺が高校生だった時に、蔵の扉が開いたのを見たことがある」
私、「その1回だけ」
父親、「うん」

家を相続した時に蔵のカギも預かっていたため、そのカギで蔵の扉を開けようとしたのだが、何十年も開けてない蔵の鍵穴は錆び付いているのか、カギが刺さらなかった。
父親、「蔵を開けるなってことだよ」
そんな気もするのだが
家宝が入っているかもしれないと思っている妻に急かされ、鍵屋さんを呼んだ。

私、「開きますか?」
鍵屋さん、「カギの構造自体はシンプルですけど、錆び付いているので、もしかしたら壊す必要があるかもしれません」
蔵にもカギにも何の思入れはないのだが、相続したモノを壊すのは申し訳無いとの思いを、鍵屋さんは理解してくれて、壊すことなく蔵の鍵を開けて頂くことが出来た。

帰り支度をする鍵屋さんだが、古い蔵の中に何があるのか気にしている。
恐る恐る蔵のメッチャ重い重厚な扉を開けると、
私・父親・鍵屋さん、「・・・」
妻、「オートバイ?」
蔵を開けて最初に見えたのは、父親が高校生の時に無断で買って、そして事故ったオートバイ。
妻は、そのオートバイを古いオートバイとしか思ってないが、私と父親、そして、鍵屋さんは、そのオートバイが現在、旧車バイクとして価値があることを知っており、目を輝かせた。
妻、「この古いオートバイ、売れるの?」
輝かせていた父親の瞳から、祖父を懐かしみ涙がこぼれた。

鍵トラブル 下関

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